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コラム:日本代表に欠かせない〝スペシャルワン〟

   

 サッカー界で「スペシャルワン」と言えば、チェルシーを率いるジョゼ・モウリーニョ監督が思い浮かぶ。自らの監督就任会見で、決して欧州トップの経済力を持つわけではないポルトを欧州チャンピオンズリーグ優勝に導き、より大きなクラブであるチェルシーへ移った指揮官は自身を「スペシャルワン」と評した。(文&写真:河合拓)

 フットサル日本代表のミゲル・ロドリゴ監督が、初めてこのフレーズを使ったのは、オーシャン杯の決勝後のことだろう。準決勝の終了間際での同点ゴール、さらに決勝で古巣の名古屋オーシャンズから得点を挙げて、府中アスレティックFCに悲願の初タイトルを呼び込んだFP渡邉知晃に対して「おまえは、『スペシャルワン』だ」と伝えたという。

 同じ「スペシャルワン」だが、意味合いは大きく異なる。前者が「特別な存在」という意味であるのに対し、後者は「特別な試合で活躍する存在」という意味だ。意味は異なるが、共通していることはある。どちらも誰かが教えたり、身につけさせたりできるものではなく、先天的に備わった能力であるということだ。

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 この「スペシャルワン」の意味を考えるきっかけとなったのは、合宿初日のミゲル・ロドリゴ監督の言葉からだった。監督に「今回のメンバーで誰が一番のサプライズだったか?」と聞かれた。唯一の初招集であるFP清水和也は、以前から将来性が高く評価されていたため、遅かれ早かれ、代表に選ばれるだろうと思っていた。そのため、サプライズとは少し違う。僕が驚いたのは、昨年9月のイタリア遠征以来、代表から遠ざかっていた32歳の稲葉洸太郎の追加招集だった。多分、監督は別の答えを期待していたのだろう。「稲葉洸太郎」と答えた直後に「森秀太は?」と聞き返されたからだ。

 

 稲葉と同じく1年前のイタリア遠征以来の招集となった森も、もう25歳。決して若手ではないが、稲葉ほど年齢は高くない。イタリア遠征直後にミゲル監督が収穫の一つとして、森のパフォーマンスを挙げて「Fリーグ全体の成果」と話していたことも覚えていたため、追加招集されても、それほど驚かなかった。

 そう説明すると、スペイン人監督は「そう、森はイタリア合宿で良かった」と頷き、稲葉がサプライズではないことを説明し始めた。

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「洸太郎に関しては、状態が戻って来るのを待っていた選手です。去年は良い時期ではなく、調子も良くなかったと思います。今年、ちょっとずつパフォーマンスが上がって行き、昨日の試合は一番良かったです」

 昨日の試合というのは、合宿前日の6日に行われたフウガドールすみだ対名古屋オーシャンズの一戦だ。稲葉の所属するすみだは0-3で敗れたが、すみだの7番の活躍は、翌日の代表合宿に急きょ追加招集することを決意させるほどのものだったという。かくして稲葉は17人目の選手として、今回の大分合宿でメンバー入りした。では、監督が稲葉に見出している能力とは何なのか。それが冒頭の「スペシャルワン」の話につながってくる。

 

「すごく重要なポイントとして、他の選手とどこが異なっているか。彼は、本当に大事なゲームのときに絶対に良いパフォーマンス、力を見せるんです」

――いわゆる『持っている選手』で、ミゲル監督が特別な試合に力を発揮することから『スペシャルワン』と呼んでいる選手。渡邉選手もそうですよね?

「渡邉もそう。彼もスペシャルワン。渡邉が一番目のスペシャルワンで、洸太郎もそのタイプです。そういう選手は、だから最終的に、絶対にアジア選手権やW杯に連れていくというわけではないかもしれません。でも、そういう選手に『いつでもアクティブなんだ』と伝え、普段からそういう力を出し切れるようになってほしいと思っています」

 

 この場合の「スペシャルワン」は、よく言えば大舞台に強い選手。その一方で、相手の力が劣る場合は、ちょっと力を出し切れない、ムラッ気があることも意味しているだろう。もともと注目を集めるビッグマッチで活躍できる選手が、普段の試合から安定して活躍できれば、監督としては起用しない理由はなくなるはずだ。

 今後の日本代表での生き残りをかけたマレーシア代表との親善試合初戦、稲葉は「スペシャルワン」であることを証明した。前半18分で0-4と格下のマレーシアに大量リードを許す展開で、4点目を喫する直前にピッチに立っていた稲葉は反撃のスイッチを入れる。チームメイトたち、とりわけ初代表のFP清水和也に大きな声で指示を出し、相手ボールのときは果敢にボールを奪いに行った。ボールを持てばドリブル突破を仕掛け、日本の個の力が相手より上だと強烈に示した。

 迎えた前半19分、稲葉のキレ味鋭いドリブルをマレーシアの選手はたまらずファウルで食い止める。ボールの前に立った稲葉は、堂々と日本語で大きな声で指示を出す。稲葉は指示通りにボールを蹴り、そのパスを受けたFP酒井ラファエル良男が、反撃の狼煙となるゴールを決めた。

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「もっともっと喋っていいと思うんです。ただでさえ代表は少ない時間しか集まれないのだから、もっと喋っていい。相手は日本語を話せないわけだから、普通に話していても何をするかはバレないんでね。日本のチーム同士になると、やることがバレちゃうんですけど、代表ではもっと話していいと思う。それは外から見ても思っていたし、ベンチから言ってもいたんです」

 相手がキックオフしたボールにも、すぐに稲葉はくらいついて行った。「ディフェンスで、ガンガン行きました。突貫小僧みたいに、若手かってくらい(笑)」。この試合、日本代表は普段通りに前からのプレスを掛けるはずだったという。しかし、どういうわけかプレスはかからず、ロングボール一本のカウンターから失点を重ねた。国際経験の浅いFP芝野創太、FP清水和也らは、どこまで相手に寄せていいのか、間合いが分からなかったということがあるだろう。稲葉は自らが実際にプレッシングを掛けることで、その間合いを示した。

 後半、日本はセットを組み替えて勝負に出る。そしてビハインドを追い付き、6-5と逆転に成功した。ミゲル・ロドリゴ監督がハーフタイムに伝えた指示ももちろん効果的だったはずだが、同時に稲葉がチームに示した優位性、プレー強度の必要性も、同様に大逆転勝利につながる道標となっていたはずだ。

 試合後、指揮官は稲葉のパフォーマンスについて、特別な賛辞は送らなかった。そこには揺るぎない信頼が滲む。「これまでの経験もありますし、ベテランらしいメンタリティを発揮してくれると分かっていました。それをその通りに発揮してくれたことに満足しています」。

 

 稲葉自身は、この勝利を「良い薬になった」と言う。

「アジア選手権の本戦で、あの戦い方になったらかなりきついんですよ。でも、それをこういうトレーニングマッチで経験できて、その中で返せた。最初は全然良くなかったですけど、そこだけは良かったのかなって。今日の後半だけを切り取って1-4から、もっといえば前半途中で0-4からだったと考えれば、そこからひっくり返せたのは大きいし、本番で同じことをしないようにしようというマインドを持てるようになったのは意味があると思います。やっぱりアジアの相手に僕たちは負けてはいけないし、明日の第2戦は今日の反省を生かしたい」

 苦しい試合展開の中でチームに何が必要かを見定めて表現し、試合の流れを変える、その「スペシャルワン」の持つ能力は、この試合の決勝ゴールを決めた渡邉の能力とともに、監督であれば手駒に入れておきたいはずである。

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